長編でお届けしていますショパール(Chopard)さんとの奇跡的なコラボレーション。
今回、最終章として、世界屈指のハイジュエリー&ウォッチブランドと一緒に仕事をさせて頂き、そこで感じたこと、学んだこと、そして、漆器や蒔絵の将来について感じたことをお伝えしたいと思います。
是非、第1章、第2章と読み続けて頂けると幸いです。
示唆に富んだ成功
ショパールさんとのコラボレーションは大成功と言って過言はないと思います。
これは、弊社目線だけでなく、おそらく、ショパールさんにとっても相応の成功なのだろうと思います。
(現時点で12年以上継続したビジネスになっていますので)
商業的に成功を納めた訳ですが、単に「売れて良かった」という以上に、この成功体験は私に様々な示唆を与えてくれました。
1番大きな示唆は「マーケットへの意識」。
もう少し具体的に書きますと「そのマーケットにおけるプライシング(価格)の面白さ」です。
弊社の主たるマーケットは、もっとも狭義では「漆器マーケット」であり、もう少し大きく捉えると「食器マーケット」となり、それに付随する形で「ギフトマーケット」に属しています。
日頃の意識として言えば「食器マーケット」に属しているという感覚です。
漆器は、いくらかの機械化や効率化はしてきておりますが、依然としてマンパワーで制作している部分が多く、また、天然塗料でありますので取り扱いが難しく、大量生産に向いていない部分ございます。
よって、どうしてもコストは高くなりがちで、食器業界という中では、平均的にみれば「高いプライシング(高い価格設定)」になりがちな宿命です。
ショパールさんの文字盤を描いている蒔絵師が制作している重箱がありますが、こちらは販売価格180万円ほどです。
文字盤に描く方が、キャンパスが小さい分、難易度が遥かに高いですので、文字盤に描くレベルの精緻な蒔絵を描いたとしたら、300万円〜400万円という価格になってくると思います。
(こちらが180万円の重箱 熨斗蒔絵。商品の詳細はこちら)
これが高いか安いかは人それぞれの価値観だろうとは思いますが、客観的に見て、食器業界で300万円のものが売れるイメージは残念ながら、そうはありません。
ゼロではないのですが、かなりレアケースと言えます。
平安堂が現代工芸の粋をすべて食器に込めると、食器としての価格を凌駕してしまうジレンマがあります。
ショパールさんの文字盤は、平安堂が考えうるかなりハイレベルな蒔絵を惜しげもなく投入しています。
こちらの「L.U.C URUSHI」ウォッチの販売価格は、やはり300万円くらいです。
(HPには2,820,000円と記載されていました)
むろん、一般的に考えれば300万円の腕時計ですから十分に高額ではあるのですが、腕時計のマーケットは巨大で懐が深いです。
ショパールさんのHPで、同じ「L.U.C」というシリーズの時計を調べてみましたところ、35アイテムが掲載されていまして、1番リーズナブルなものが97万円、1番高額なものが2000万円オーバーでした。
そして、弊社のコラボウォッチは、35アイテム中、下から14番目の価格。
つまり、ほぼ中間の価格帯であり、若干安いラインナップに属しているということになります。
これは、本当に示唆に富んだ事実でした。
食器というマーケットでやっていると、怖くて怖くて作れなかった品質のものが、時計という業界に入ると中くらいで済む。
そして、中価格帯ゆえ、非常に販売も好調で、一時は1年待ちレベルまで受注が積み上がるという事実。
ついつい、自分の属しているマーケットだけで思考が完結してしまいがちですが、割と身近なところに、まったく違う価値観のマーケットがあったということです。
「私はダイヤモンドより漆器よ」
真偽は知りえませんが、マリー・アントワネットの母で、大の漆器コレクターであったマリア・テレジアの言葉として残されていますが、時計というマーケットでまさにこれが証明されました。
ダイヤモンドを散りばめた1000万円クラスの時計も良いですが、クラフトマンシップが濃縮された時計も評価して頂けたということです。
(マリーアントワネットの漆器コレクションの記事も是非お読みください)
実に示唆に富んだ「気づき」でした。
目から鱗以上の気づきでした。
マーケットを変えてみれば「驚くほどの可能性」が見えてくる。
とても良い「学び」も頂けたと思います。
職人に報いる
これは綺麗事で言っている訳ではなく、実現したいことの1つとして考えていたことに「一流の職人はサラリーでも一流であるべき」というものです。
逆に言えば「超一流の職人であっても、サラリー面では報われていない」という現実があったということです。
その職人のもつ「超絶技巧」を発揮する品物を作ることは、商業的に本当に難しいです。
そして、それを常に作り続けることとなると、難しいを超えた次元の話です。
職人の報酬は、職人さんごとに時給なり能力給が決められてる訳ではなく、一般的には、作った物に対する技術料として支払われますので、超絶技巧を持っていようとも、超絶技巧を発揮しなければ、その対価は貰えないことが多いです。
今回、ショパールさんとの仕事は、この「職人に報いる」を、かなりハイレベルで実現することが出来ました。
まず、職人の持つ高いスキルを、その全てとは言いませんが、大半をぶつけることの出来る「モノづくり」が出来ること。
そして、それが10年を超える歳月で実現されていること。
結果として、この職人さんは、それに見合うサラリーを受け取ることができ、金銭的にも大変に恵まれたということとなりました。
職人さんは「自分の腕を存分にふるえる仕事があること」に喜び、私は「腕のある職人に見合ったサラリーを払うことが出来た」ことに喜びを感じたということになります。
綺麗事だけでは生きていけません。
工芸の世界も一緒です。
このように、腕を磨けば素晴らしい対価が得られるということは、今後、職人を目指す人達の希望にもなると思います。
また、私は、そのような仕事をしっかり創造していくことが大事になります。
この1件で何でも解決する訳ではございませんが、大いなる希望を見いだせた仕事となりましたし、私の夢であった「職人に報いる」が、僅かではありますが実現することが出来ました。
名誉ある諸々
長編となりました、ショパール(Chopard)さんとの奇跡のコラボレーションも、これで最後にしたいと思います。
最後は、この仕事であまり知られていない、ちょっとした自慢話をさせてください。
(1)「L.U.C URUSHI」を収める箱も漆器
「通常の箱では物足りない」というショパールさんの意向もあり、手の込んだ収納箱も平安堂で制作しております。
八角形という独特のインパクトある形状。
蓋(ふた)の裏面に施された金箔の迫力。
正絹で編み込まれた「道明(どうみょう)」さんの特注の組紐。
この箱だけでも、なかなかの価値だと思います。
(2)裏面に刻印された「YAMADA HEIANDO」
時計の裏面には、「YAMADA HEIANDO」と刻印されています。
まだ、これほど大きな仕事になる想定ではない、国内限定モデルとして企画されていた段階で、ショパールさんより、漆器、蒔絵へのリスペクトの証としてこのロゴを刻印したいと申し入れがありました。
本当に光栄なことです。
単なる下請けではなく、対等に、相互リスペクトの上での仕事であることを表現して下さいました。
実に「粋」です。
感涙ものです。。
(3)筆記体で描かれた「Chopard」のロゴ
ショパールさんは、筆記体の「Chopard」と、活字体の「L.U.CHOPARD」という2種類のロゴを使い分けています。
私の聞いている話では、活字の「L.U.CHOPARD」は男性ものに、筆記体の「Chopard」は女性もの使っているそうです。
そして、平安堂とショパールとのコラボレーションで生まれた時計は「男性ものでありながら女性用の筆記体ロゴ」が与えられています。
「エレガントな蒔絵に、男性的な活字体は合わない」
というショパールさんの判断で、前例のない(かどうかは定かではありません。私はそう聞いております)「男性ものに女性用ロゴ」という稀有な存在として誕生しました。
(こちらが筆記体のロゴ〉
(こちらが通常、男性用に使う活字体のロゴ)
蒔絵の美しさ、ショパールさんの言葉を借りれば「エレガントさ」が、前例のない判断をして貰ったことになり、これもまた嬉しく、そして自慢となる逸話の1つです。
最後に
3章に渡る長編となりました。
最後までお読み頂けていましたら、本当に感謝しております。
自己満足みたいな内容になってしまっているかもしれませんで、そうなっていましたらお許しください。
毎日、膨大な仕事を積み重ねている中で、失敗や成功の連続となる訳ですが、その全てに「学び」があります。
ショパールさんとのコラボレーションは、その「学び」の多さも群を抜いた案件ですし、私のビジネス・ヒストリーの中で、これを超えるものが出てきて欲しいと心から思っておりますが、自信を持って「超えられる」と言い切れないほどのインパクトがあり、ついつい長くなってしまいました。
皆さまにとり、なにか参考や「学び」になりましたら幸いです。
〈第1章はこちら〉
〈第2章はこちら〉
〈ショパールさんのHPはこちら〉
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