コロナ禍と職人問題

2020年は言うまでもなく、コロナ禍の影響をうけ、20年以上に渡る私の経営者人生においても経験のない1年でありました。
コロナ禍における愚痴を書き出したらきりがないですし、みなさま等しくコロナと戦った訳ですので、私だけが不幸であった訳でもありませんですから置いておきましょう。

問題は、やはり、コロナの与えた漆器への影響です。


(お椀の形に削り出す作業)

「漆器 山田平安堂」は屋号でして、法律上は「株式会社 山田平安堂」です。
老舗であろうとベンチャー企業であろうと、会社の存続という意味では、まあ、色々あるかもしれませんが「現金があるかないか」「利益が出ているか赤字なのか」などで決まってきます。

「株式会社 山田平安堂」も、コロナ禍で漆器が売れなくなってしまいましたが、いくつかの事業を営んでおりますし、コロナ禍における様々な助成金などにも助けられ、とりあえずではございますが、会社は存続できております。
陶磁器を売る、ガラス器を売る、売れるかどうかは別にして、服を販売しても良いですし、食料品を販売しても良い訳でして、極論、「株式会社 山田平安堂」が生き延びるための手段は色々とございます。

あと、平安堂の名誉のために書いておきますが、漆器部門も9月以降は前年対比でプラスの月も出てきておりまして、多くのお客様に支えていただきながら復調しており、大変に感謝しております。
記念品などの需要はまだまだではございますが、「自宅での食卓」の大切さが見直されましたようでして、お椀やランチョンマットなどは製作が追いつかないほどでございます。
食器屋として、ご自身で使われる漆器をお買い上げ頂ける時が一番うれしいですので、ご自宅の食卓が見直されたことは、数少ない嬉しい1つです。

さて、話を戻しますと、私の最大の懸念は「株式会社 山田平安堂」ではなく「漆器 山田平安堂」です。
むろん、漆器という文化がなくなり、漆器の作り手がいなくなるような極論のお話ではありませんが、「産業としての漆器」で考えますと、そもそも相当に疲弊をしている業界ではあります。
ライフスタイルの変化などもあり、漆器の生産が減り、職人さんも激減しています。
弊社も、ここ十数年の投資といえば「職人育成」がほとんどでして、放っておくと作りたくても作れない事態が起こりえる状況です。

毎年毎年増収が出来ていた訳ではありませんが、ベクトルとしてはなんとか成長の方向性で経営が出来ていました。
これは何を意味するかと言いますと、職人さんへの支払いが増えるということになり、間接的に職人問題を下支えしたことにも繋がります。

決算レポートを毎年作っていますが、売上高や利益が重要なことは当たり前ですが、私は、独自指標として「漆器生産高」という項目を作り、それが伸ばせているのかをチェックしているほど、漆器産地への支払金額、つまり職人さんへの支払い金額には注意を払い経営を行っております。


(最後の上塗り風景)

そのような中、今期は1億円近い漆器生産高が落ち込む可能性があります。
経営の根幹に関わる数字なので、多少ぼかして書かせて頂きますし、これを大きいと感じるか小さいと感じるかも人それぞれだとは思いますが、現実として1億円が産地から奪われたことになります。

仮に原材料費が30%、その他家賃などの経費が20%とすれば、残り50%が職人さんの取り分。
(もの凄い大雑把で申し訳ないです)
職人さんの手元に残る金額で考えると5000万円が失われたことになり、日本の平均年収が500万円弱だったはずですので、職人さん10名分の仕事量を失った計算になります。

もちろん、弊社で直接雇用している職人さんは給料という形ですし、独立した職人さん達も様々な助成金や支援金を受けているはずですので、全てストレートに反映されている訳ではありません。
しかし、失われた仕事量は現実として存在していることも事実です。
漆器業界では、弊社は大手の部類に入るのだろうと思いますが、金額の大小はあれど、このようなことが、そこかしこで発生していることになります。

工芸品の宿命であり、弱点であり、そして、だからこそ工芸品は素晴らしいのですが、職人さんがいなくては何も出来ません。
職人は、当たり前ですが、急に生まれるものではなく、熟練が求められます。
失われた技法は、なかなか復活させることが難しい側面もあり、この世界で一番怖いことが「技術の断絶」です。
理論上は、また職人を育てれば良いということになりますが、断絶したものを復活させることは決して容易いことではありません。
今回のコロナ禍が漆器業界(おそらく様々な工芸品業界)に与えたインパクトは「断絶への恐怖」です。
機械やロボットが作るのではなく、人の手で作るものに関しては、この断絶こそが致命的になり、その恐怖をものすごく身近に感じさせる事象でありました。

また、ここまで大きなインパクトで襲われると、なかなか解決策が見出しにくいという悩みもございます。

私には「株式会社 山田平安堂」の代表という立場と「漆器 山田平安堂」の当主という立場があるのだなと痛切に感じた1年であります。
両方大事であることは当たり前ですが「漆器 山田平安堂」の当主としての頑張りが期待されている2021年であることを忘れずに精進したいと思います。

=平安堂の若手職人の記事はこちら=
若手職人頑張っています

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ABOUTこの記事をかいた人

漆器 山田平安堂とHeiando Barの代表取締役。 昔はお酒が飲めなかったのに、今ではお酒マニア。 漆器とお酒の魅力を伝えます!