あまり安易に「奇跡」という言葉は使いたくありませんが、ショパール(Chopard)さんとのコラボレーションは「奇跡」と呼びたい輝かしい実績です。
「漆器や蒔絵の美しさ」を心から信じている私にとり、ある意味「必然」であったり「当然」であったりもするのですが、それを世界レベルで実証できましたので、やはり奇跡的なことであったと思います。
(L.U.C XP URUSHI 森羅万象)
今回は、このショパールさんとのコラボレーションをご紹介したいと思います。
プロローグ|蒔絵の可能性を信じ
「漆器=食器」というイメージが強いかと思いますが、少し時代を遡りますと、刀の鞘であったり印籠であったり兜などに「華美な蒔絵を」描きお洒落をしたり、高い地位を誇示したりなど、「身につけるもの」で表現をしていました。
女性用でしたら、簪(かんざし)、櫛(くし)、手鏡、帯留なども盛んに作られていました。
私が常々考えていたことの1つが、この美しい漆塗や蒔絵を「身につける」というステージで表現をしたかった、認めて頂きたかったという部分です。
では、何に表現をするのか?
万年筆やカフス、タイピンなども考えましたし商品化もしていますが、今のライフスタイルの中で1番お洒落するもので、1番ステータスシンボルの役割を担っているものは、やはり「腕時計」。
私の中で、腕時計の文字盤に蒔絵を描くことが一つの夢として培われていました。
ショパール(chopard)との出会い
お洒落に関心が薄かったこともあり、正直に話しますと、私はショパールさんというブランドを正確に認知していませんでした。
なんとなく「Chopard」というロゴを見たことがある、知っている、程度でした。
ショパールの日本法人の方が平安堂の漆器のファンでいてくださり、最初の接点は弊社のお客様というものでした。
興味が湧き、ショパールさんを調べてみると、1番有名な商品であろう、女性用の「ハッピーダイヤモンド」は私も知っていましたが。。
調べてみると、
世界屈指のハイジュエリーブランドであること。
それでいて、今の時代では本当に珍しい「ファミリービジネス」で成り立っていること。
レッドカーペットの宝飾を提供していること。
時計に至っては自社で機械式の機構を開発していること。
知れば知るほど偉大なブランドであることに驚いた次第です。
かねてから「文字盤に蒔絵を描く」夢を持っていましたので、恐る恐る、そのような提案をしてみても良いか打診してみましたところ、快く快諾してくださいました。
さっそく制作してみたサンプルがこちら。
まあ、今となって見てみると稚拙なサンプルだったなと思わないでもありませんが。。
ショパール・ジャパンの方のご厚意で、このサンプルを元に本国へプレゼンをして頂き、その結果は・・。
「日本限定モデルであれば前向きに検討する」
という内容でした。
世界屈指のハイジュエリー&ウォッチブランド「ショパール」さんとのコレボレーションが動き出しました!!
(個人的に好きな黒いキャンパスに黒い蒔絵。絵柄は違いますが、最終的に採用されたコンセプトです)
(ヨーロッパの方の知っているデザインと思い描いた意匠。サンプルではありますが、超絶技巧です!!)
(朱色の文字盤は採用となりませんでしたが、私の好きな朱色に金の板を精緻に貼り付けたものも提案)
国内限定販売
一足飛びに世界で販売とは行きませんでしたし、私もそこまでの高望みをしていませんでした。
そもそも採用してもらえる可能性すら、相当に低いと覚悟していた案件です。
国内の販売に限定されたとはいえ、弊社として、というよりも「私自身の夢が一つ叶った」ということで、本当に感動と喜びに満ち溢れた瞬間でした。
さっそく、弊社最高の蒔絵師、ショパールさんを交えデザインの詰め。
とにかく、平凡なものは作りたくなかったです。
これは、全員の共通事項。
その中で、漆器屋としての想い、職人の想い、そして世界ブランドの意向などがぶつかり合い、何十枚と下絵を描き、最終的に決定した絵柄が「森羅万象と五獣五神」
「空想上の五獣五神とそれを司る森羅万象」
6種類の絵柄で表現する蒔絵ウォッチの世界観で勝負することとなりました。
イラスト原画はこちら。
記念すべき6絵柄
この後も、色々と修正を繰り返し、最終的に完成した文字盤はこちら。
(L.U.C XP URUSHI 森羅万象)
(L.U.C XP URUSHI 鳳凰)
(L.U.C XP URUSHI 麒麟)
(L.U.C XP URUSHI 白虎)
(L.U.C XP URUSHI 玄武)
(L.U.C XP URUSHI 青龍)
先にも書かせて頂きましたが、私のやりたかった「黒いキャンパスに黒蒔絵」の「森羅万象」も採用して頂け、それに加えて「鳳凰・麒麟・白虎・玄武(亀)・青龍」の合計6絵柄。
スタートとしては、異例(だと思います)の多絵柄展開です!!
写真を見て頂けるだけで、なかなか精緻な蒔絵であることは伝わるのではないかなと思います。
ちなみに、文字盤の直径は「3.4cm」
この狭いキャンパスに髪の毛ほどの細い線を駆使して描いています。
ちなみに、ショパールさんから求められた蒔絵の高さの制限は、なんと僅か「0.4mm」
これを超えると、時計の針とぶつかってしまうようです。
この高さを意識しながら「立体感」も表現しております。
私が直接聞けている訳ではありませんが、ショパールの本社においても、この品質は大変に評価されていると聞いています。
ショパールさんは、冒頭にも記載しましたが、世界的にみてかなり珍しい「ファミリービジネス」の会社です。
オーナーと社長が一致しているということです。
オーナーが最初のサンプルをみて感動し「商品化のGOサインが出た」と聞いていますので、ファミリービジネスの柔軟性であったりスピード感が、弊社にとっては、結果として「吉」と出た部分も感じます。
オーナーが「美しい」と思ったものが、すぐに商品化される。
一般的な大企業ではなかなか難しいことですよね。
まさに「奇跡」。
奇跡と書くと、やはり大げさに感じてしまいますが「奇跡的」であることは間違いないと思います。
「ショパールさんとのコラボ」はまだまだ書きたいことが沢山ございますので、続きは第2部に。
今回は、商品化までのお話とさせて頂きます。
続きも楽しみにして頂ければ幸いです。
<第2章はこちら>
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