若手職人頑張っています!|みつ飴と砂霞

漆器に限らず、多くの工芸で「職人の高齢化」「職人そのものの人手不足」が問題になっていまして、これは、なんとなく肌感でご理解頂けるのかなと思います。

この問題はなかなか解決が難しく、平安堂としても苦慮している部分ではありますし、この記事でいきなり解決策をコメントできる状況でもございません。
ただ、平安堂の若手職人が、最近立て続けにヒット商品を生みだしまして、非常に嬉しくあり、頼もしくもあり、本人のモチベーションにも繋がると思いますので、今回、ご紹介をさせて頂きたいと思います。


(減りゆく職人さん。お椀の中塗りをしている画像です)

塗師(ぬし・ぬりし)


今回紹介する職人は「塗師」です。
「塗師」とは、この業界で「塗る人」のことを指します。
絵を描く人は、主に「蒔絵師(まきえし)」と呼ばれ、ボディを作る人のことを「木地師(きじし)」と呼びます。
(もっと細分化した呼び方や職種もございますが、それはまた後日に改めて)

塗師にも何種類か分類されることがあります。
丸物や曲げ物と呼ばれる、お椀に代表される丸いものを専門に塗る人。
指物(さしもの)や角物(かくもの)、箱物呼ばれる、重箱など板で出来た物を専門に塗る人に分かれることが多いです。
一般の方からしてみますと、「どっちも塗れるのでは?」と思うのだろうと思いますが、道具も手の動かし方も全然違いますので、一般的にはどちらかを専門でやる職人さんが多いです。

ちなみに、私は、職人さん達に「多能化」を推奨していまして、弊社の職人は概ね、2種類の業務はこなせるようになりました。
丸物も箱物も塗れるように努力してみる。
下地と上塗の両方を出来るようになる。
何かしらスキルが増えれば、下火になってしまった業界でもやっていけるはずだと思っています。


(職人の増子貴志。若手と言いましても40代前半ですが。。)

若手職人|増子貴志

彼との出会いは、弊社の蒔絵師の結婚式で同席したことでした。
当時、彼は違う工房で働いていたのですが、この業界あるあるなのですが、年々仕事が減り、腕を奮うチャンスが年々奪われていく状況でした。
能力があっても、それを活かすだけの仕事がないケースは割と多くありまして、このような場合、最悪の展開は「職人を辞め、何か違う仕事に就く」です。
せっかく若い職人が育ちそうなチャンスがあっても、周りの応援がなく、明るい未来をイメージできず、違う仕事に行く。
そして、ただただ、職人の高齢化が一方的に進む悪循環ですね。。

幸い、弊社は塗師を探している状況でもありましたし、若い職人と共に未来を描きたいと思っていますので、本当に苦しくなったらうちにおいでと伝えておいたところ、数年後に平安堂の門戸を叩いてくれた経緯の職人です。

常にこのようなラッキーが転がっている訳ではありませんが、平安堂にとり彼にとり、良いタイミングであったように思います。

増子貴志の生みだしたヒット作

平安堂にはデザインチームが存在し、私がその責任者であり、新商品は基本的に本社で企画されています。
最終デザインまで本社で仕上げ、それを職人が作るルーティンが基本です。

ただ、この仕組を20年続けてきましたので、私自身も少々マンネリ化を感じていました。
また、若手のモチベーションを高めるためにも、新しい仕組みが欲しいと思い、彼を採用した時に「年に1回、必ず新しい塗りを提案すること」を約束して貰いました。


(私との約束に驚いたときの写真。ではありませんが、記事を書くにあたり写真を送れと連絡したらこんな写真を送ってきましたので掲載しておきます。彼はわりと陽気な職人です。笑)

約束しつつも、私も業務に追われている面もございますし、それほど、この約束に固執していたり、しつこく確認をしたりもしていませんでしたが、ある時、工房に出張した際、彼から「社長にみて欲しいものがある」と出されたものが、現在の「みつ飴シリーズ」となるサンプルでした。


(大ヒットとなりました「みつ飴シリーズ」)

嬉しかったですね。本当に。
サンプルの良し悪しを抜きにして、ちゃんと約束を守り、しっかりと努力をしてくれていた訳ですから。

そして、そのサンプルを見た瞬間、ヒットを確信しましたので、嬉しさは何十倍です!

その後も、彼は何種類かの新しい表現技法を開発し、次なるヒット作「砂霞(すながすみ)」の採用になりました。
「砂霞」は、まだ投入したばかりなので、シリーズ化はされていませんが、主力に育つ可能性が大きいですね。
初速売上は、「みつ飴シリーズ」と遜色ないですので。
どこまで育つのか楽しみです。



(こちらが「砂霞」。ヒットの予感です)

最後に

私には、会社の発展、つまり漆器を1つでも多く皆さまに届けることが使命です。
ただ、私は、職人をしっかり育て、20年後、50年後、100年後にも、しっかりとした漆器づくりができるような「健全な業界」を作ることも大事な使命だと思って仕事をしております。
このような記事は、美談とも取れる良い部分を書いていますが、もちろん、全てが順風満帆ではございません。
失敗の方が多いでしょうし、妥協もあります。

ただ、このような記事を書くことにより、彼のモチベーションが更に高まるのであれば幸いですし、私自身への発奮にもなるかなと思い書かせて頂きました。
小さなイノベーションですが、この積み重ねも大事です。
またチャンスがありましたら、若手職人の紹介をしていきたいと思いますので楽しみにお待ち下さい。

〈商品へのリンク〉
取鉢 みつ飴
小判皿 みつ飴
サラダボウル みつ飴
丸皿揃 みつ飴

丸皿 砂霞

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ABOUTこの記事をかいた人

漆器 山田平安堂とHeiando Barの代表取締役。 昔はお酒が飲めなかったのに、今ではお酒マニア。 漆器とお酒の魅力を伝えます!