漆の木から取れた樹液=漆
非常に不思議な天然の塗料です。
(漆の木に傷をつけ染み出した樹液を採取します)
今回は、ちょっと不思議な漆の性質についてお話いたします。
不思議と書きましたが、正確にはユニークな性質という表現が正しいのかなと思います。
UNIQUE(ユニーク)の意味は「唯一の」「他に類をみない」「珍しい」という意味ですので、まさにぴったりです。
漆の樹液を精製すると、塗料としての漆になります。
この漆を木など何かしらに塗装し、乾いたら漆器の完成です。
(精製した後の漆。乳白色ですが、すぐに酸化し黒くなります)
ここで「乾いたら」と書かせて頂きましたが、これは不正確な表現です。
我々も、職人さんと話すときに「まだ乾かないの?」「乾くまであと2日くらいかかります」みたいな会話をしていますし、お客様にも「漆の乾きが悪くて。。もう1週間お待ちいただけますか」とお詫びしたりもしていますが、これも本当は正しくない表現なのです。
漆を塗り、漆の中の水分が蒸発なりして定着するのであれば、「漆が乾いた」で正しいです。
多くの方は、このイメージを持たれているのではないでしょうか?
でも、よくよく考えると、漆のお椀にお味噌汁を入れたりしますよね。
水分が飛んで乾いたのであれば、お味噌汁入れたら、また元に戻ってしまいます。
漆は正確には化学反応で「硬化」しているのです。
漆の中に含まれている、「ラッカーゼ」。
これが、空気中の水分と酵素反応を起こし、非常に特殊な成分である「ウルシオール」が時間をかけて硬化する。
この「化学反応による硬化」が漆の本質と言いますか、漆の正体です。
水分を取り込んで硬化しているとも言えます。
ですので、正確には「乾く」「乾いた」ではなく「硬化する」「硬化した」となります。
工房では、漆を塗った後、ムロとか風呂と呼んでいる乾燥室に入れます。
(乾燥室ではなく、正確には硬化室ですね)
この乾燥室、まったく乾燥していません。
湿度が70%くらいあります。
これくらいの湿度がないと硬化作用が進まないのです。
湿度75%、気温25度
2つを足すと100になるので覚えやすく、この組み合わせがムロの目安です。
(奥に見える部分が硬化させる乾燥室)
漆は1度硬化すると、その硬度は高いです。
耐水性が高いこともさることながら、酸性、アルカリ性にも侵食されることがないことから、非常に実用性が高く、日本や中国で生活に根付きました。
最近の研究では、抗菌作用も非常に高いことが証明されています。
天敵は紫外線。紫外線に長いこと触れていると劣化(硬化が破壊)してしまいます。
6000年前の漆器が出土しました。
髪飾りではないかと言われています。
(6000年前の人が髪飾りをしていたということも驚きですが)
この出土品、もちろん、6000年、土に埋もれていた訳ですから、土台である木などは全て腐食し土に帰ってしまっています。
漆の部分だけが、高い抗菌、対水性、対酸性、対アルカリ性により腐食せずに残っていた訳です。
(所蔵&出典:福井県立若狭歴史博物館)
これ、本当に凄いことです。
漆の凄さを6000年かけて証明してくれた出土品です。
漆には、このような「凄さ」が備わっています。
自然からの、素晴らしい贈り物ですね。
漆の木はアジア全般に生育していますが、タイやベトナムなど南方になると含まれる成分が変わってしまい、ここまでしっかり硬化しないようです。
日本や中国の漆が、このような特徴を有しています。
少し皆さまの生活から遠ざかってしまった「漆」ですが、日本や中国にだけもたらされた、不思議な力を持った自然の恵みです。
漆器に触れる機会がありましたら、こんなことを少し思い出して頂けましたら幸いです。
《ご参考》
6000年前の出土品の分析資料
漆器の抗菌作用は京都漆器工芸協同組合のHPに掲載されています。
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1|めし椀のススメ
2|黒越誠治という男
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