平安堂の経営論|在庫を積み上げろ

一般的に、商品在庫は少ない方が良いとされています。

経営の手本とされているトヨタ自動車の「ジャスト・イン・タイム」があまりに有名ですが、必要なものを、必要なタイミングで、必要な分だけ生産し、在庫を圧縮しつつ効率的な経営を目指すものがトレンドです。
最近の在庫管理で注目されているのは、ファストファッションの最大手「ZARA」
新しいアイテムを作ったら、基本的には人気があっても追加生産せず、売り切って終わりにしてくスタイルです。
これは、常にファッショントレンドを作り出すために、「新商品を多数投入していく必要性」という側面が大きいとは思いますが、過剰在庫を作らないという効率的な経営に繋がる部分もあり、これもまた、在庫面からみた効率的な経営スタイルとして注目をされています。

在庫が過剰な時のデメリットとして良く言われるものは、
1)限られた資金が在庫で眠ることになる
2)売れ残りが発生し、処分費用や利益を犠牲にしたSALEなどをしなくてはいけなくなる

の2点です。

もちろん、倉庫保管費用が多くかかると言った側面もあるでしょうし、上場企業であれば、重要な経営指標が悪化することで株主や株式市場から評価をされないなどもあると思いますが、突き詰めると、効率的なお金の使い方が出来なくなることと、利益を犠牲にするリスクが出てくるという2点が大きなポイントです。
ですので、よく、経営の参考書などにも「在庫」=「罪庫」と揶揄した表現で注意喚起をしたりしています。
(なかなか上手い揶揄ですよね)

私も経営者になった当初は、まず、在庫削減に取り組んだことを覚えています。
私が会社を継いだ時は、確かに在庫が著しく過剰でして(売上と同じくらいの在庫がありました)、まずは適正在庫に戻すということに精力を費やしておりました。

徐々に在庫も一般的に言う適正に近づき、会社も安定的になった頃、ふと「在庫を削減するのが本当に正しいのか?」と思うようになりました。
いや、正しいか正しくないかで言えば正しいのですが、「皆が同じことをやっていたら差別化にはならない。在庫を持つことで差別化に繋がるのではないか??」という発想の転換期が訪れました。

少し大袈裟に言えば「資金の続く限り在庫を積み上げよう」というものです。
弊社のビジネスで言い換えれば「お金の続く限り、漆器を山ほど作り、しっかり商品を積み上げよう!!」ということになります。

少し経営に余裕が出てきたこともあり、真逆の経営スタイルを試してみることにしました。

弊社は漆器店ですので、ベースとする生業(なりわい)は、「個人のお客様に食器(漆器)を販売する」というものです。
お椀を個人の方に販売するにあたり、そんなに在庫を積み上げなくても大丈夫ではあります。
ただ、もう一つの側面として、弊社には「贈答品を提供する」という部分もございます。

「友人の結婚にあたり、お椀をプレゼントする」
「お世話になった部長が栄転するので、写真立てをプレゼントする」
という個人的な贈答シーンもさることながら、
「結婚式の引出物で100個ほど使いたい」
「会社が50周年を迎えるにあたり、取引先300社に感謝の品を贈りたい」
というような、大きなロットでの、言ってみれば、贈答品というより記念品という意味合いのビジネスも重要だったりしています。

他社さまが在庫を削減していくなか、平安堂だけは在庫を積み上げていく。
この方針転換が行われたことにより、弊社では、短納期の記念品が驚くほどに成約するようになりました。
平たく言えば、売上が大きく伸びたということです。

百貨店さんなどからも「平安堂に頼めば間に合う」と信頼を得られたようで、色々な案件を紹介して頂けるようにもなりました。
つまり、チャンス(機会)の増大にも繋がった訳です。

「商品の魅力で成約に繋げる」
この本筋から外れてはいけません。
私も、1度足りとも、商品の魅力への意識を落としたことはありません。

ただ、他方、「他社さまが供給できないこと」にビジネスチャンスがあることも間違いありません。

弊社にとり「在庫を積み上げる」が、その答えの一つでありました。
シンプルで簡単、そして非常に効果的な差別化になりました。

弊社は、ZARAさんのようなシーズン性やファッション性を問われるビジネスでないことは事実です。
商品の息が長いことから、在庫を積み上げるリスクは確かに少ないという事業特性はあります。

私が伝えたいなと思ったことは、今回は「在庫」について書いた訳ですが、それは事業によりけりでして「どなたにでもどうぞ」という話ではありませんが、ただただ教科書通りにやることが正しい訳ではないと常々思っていますし、その一つの好例として書かせて頂きました。

教科書、参考書は正しいことが書いてありますが、全てを教科書通りにやることは、決して正しいことではありません。
教科書通りにして成功するのであれば、誰でも成功を約束されますが、現実はそんなことありませんので。

基本となる部分にセオリーはありますが、事業を見極め、どこかで差別化を行う。
今回は「在庫を増やす」という逆転の発想を書かせて頂きました。
しっかりシミュレーションした上でという話になりますが、教科書と違うことが差別化に繋がるという部分、ご理解頂けたり、何かしらのチャレンジに繋がって行きましたら幸いです。

《補足》
現在でも、在庫を積み上げる経営はしておりますが、無限ではありませんし、在庫切れしてしまっている品物もございます。
偉そうに書いてはおりますが、対応しきれないケースもございますことご了承ください。

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ABOUTこの記事をかいた人

漆器 山田平安堂とHeiando Barの代表取締役。 昔はお酒が飲めなかったのに、今ではお酒マニア。 漆器とお酒の魅力を伝えます!